ひた ひた ひた 足音が闇に響く。 周囲は静まり返り、物音ひとつしない。 響くのは、自分の足音のみ。 ひた ひた ひた 歩いているのは、本当に自分なのだろうか? ふと、そう思った。 しかし、歩みは止まらない。 どちらでも良いのだ。 自分であろうと、そうでなかろうと。 肝心なのは、この目が「見る」こと。 あれを見なくては。 それさえ出来れば、他は全て問題ではない。 そこまで思考し、満足した。 些細な違和感には蓋をして。 しばらく歩くと、白いドアが見えた。 白いせいで、闇に浮かんでいるように見える。 目にした瞬間、どくん、と心臓が跳ね上がった。 ―――ああ、あの中に・・・あるはずだ。 自分はそっと、鍵穴から覗くだけでいい。 その瞬間を想像しただけで、身体が震えてくる。 ―――恐怖で。 自分の思考に首を傾げる。 恐怖なんて、感じるはずがないのに。 自分は、それを求めているのだから。 恐怖ではなく、これは歓喜だ。 何故恐怖などと思ったのだろうか?馬鹿馬鹿しい。 震える足を前へと進め、ドアに近づいてゆく。 一歩進めるごとに震えは大きくなり、呼吸は速くなる。 ―――コワイ 頭をふって、余計な思考を振り払う。 そんなはずが、ないのだから。 震えは、歓喜のあまり興奮しているせいだ。 前に進まなくては。 望みを、かなえるために。 「見る」ために。 ―――進みたい。 ―――イヤ、イキタクナイ 全く同時に正反対のことを思う。 まるで、自分の身体ではないようだ。 他人に身体を借りたらこんな感じなのかもしれない。 ちらりとそんなことを考えながら、前へと進む。 自分は、見なくてはならないのだ。 絶対に。 ―――ミタクナイ カエリタイ ドアの前に、立つ。 ―――イヤ ゆっくりと、屈み込む。 ―――ヤメテ 小さな穴に、そっと目を近づけていく。 ―――コワイ コワイ コワイ コワイ!!!! そして、目の焦点が合って―― 麻衣は、突然目を覚ました。 夜明けにはまだ、時間があるようだ。外は暗い。 とても嫌な夢を見たような気がする。まるで、全力疾走をした後のように呼吸が速い。 昨日の疲れが、全くとれていない。身体が鉛のように重い。 (まだ、時間あるからもう少し寝ようかな) そう思って布団をかぶりなおそうとするが、うまくいかない。 不思議に思って手元を見ると、震えていた。そこで初めて、自分が震えていることに気が付いた。 内容は全く覚えていないが、よほど嫌な夢を見たらしい。どうせ今までの調査のことだろう。怖いことなら、沢山あった。 溜息を一つつくと、布団に潜り込んで身体を丸める。 (大丈夫、夢なんか見ない) 自分に言い聞かせ、目を閉じるとたちまち睡魔が襲い掛かってきた。 麻衣は今度こそ、夢も見ないくらい深い眠りへと落ちていった。 |